短文『ある男の話』


 男はその場所で、ただ呆然と視界に映る景色を見ていた。感情は特にない。今の彼は、被写体に必死にピントを合わせるカメラに似ている。電源が入るのは10分に1回。駅に電車が到着すると、自動的に動き始めた。

 この駅はそんなに大きな駅ではない。通勤ラッシュの時だけ臨時で停車するような、いわば中堅駅。ここ5年程メジャー昇格の機会を伺っていると聞いたこともあるが、おそらく噂で終わるだろう。未だに日中は普通電車しか止まらない。それでも電車が駅に入ってくると、30秒後には改札がたくさんの人で溢れた。特に18時頃の駅前は大にぎわいだ。ケーキ屋の箱を持った定時上がりの会社員から、携帯を耳に当てた制服の小学生まで。目にする大半の人たちが駅周りの高層マンションに収納されていくかと思うと、今流行りのダイバーシティとやらを認めざるをえない。それでも、男の目は捉えるべき被写体をその中に見つけることはできなかった。どうやら、もう少し待つことになりそうだ。深めに息を吐き出した後、男はポケットに入れておいた缶コーヒーを開けた。

 このあたりは最近ゴミ箱が増えた。聞いた話によると、近所の小学生たちが総合の時間とやらでゴミ問題を勉強しているらしい。確かに駅周りのゴミ箱はやけにカラフルだし、よく見ると下の方に小さく班の名前らしきものが書いてある。男はつぶした缶コーヒーを黄緑色のゴミ箱に入れた。同時に、飲み残しがほんの少し飲み口から漏れだしていく。男は根拠のない罪悪感を感じながら、今日に限ってゴミを持ち帰らなかったことを後悔した。

 どのくらい待ったのだろう。改札から先ほどの5割増し程の人々が溢れ出てきた。ほとんどはカッチリとしたスーツに身を包み、大股で歩いている。まるで競歩のアマチュア選手権を見ているようだ。男はまた電源を入れる。そろそろピントがあってもおかしくない頃だ。そして数十秒後、ようやく男はお目当ての被写体を視界に捉える。さぁ、娘のおかえりだ。向こうも気づいたようで、満面の笑みで駆け寄ってくる。今日は学校でどんなことがあったのだろう。きっと帰り道はまたマシンガントークだ。男は自分の存在を伝えるように、皮が厚くなった手を振った。この瞬間が明日も訪れることを、男は今日も願わずにはいられない。

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お久しぶりです、
あけましておめでとうございます。
遅すぎですね、すみません。

幸せなことにライターのお仕事やら、
新しいインターン先でのお仕事が重なり、
家にこもってるのにやることたくさん、みたいな日々が続いていました。
ちなみに新しいインターン先はスカラインターナショナルというベンチャーさんです。
デザインの勉強をさせていだいております。


また別に報告しますが、2015年初旅にも行ってきました。
高知、徳島、香川をぐるっと。
たった4泊5日でしたが、図らずも温泉に2度入れるような優雅な旅でした。
地方の良さにどんどん侵食されている自分がいます。

さて、18日に21歳にもなり、
新年一発目のブログ更新は800字の短文となりました。
実はこれ、納品用に書いて自分でボツにしたものです。
ちょっと趣旨に合わないかなと思いまして…。

なんとなく男目線の文章を書くのは前から好きなのですが、
人様の目に晒すのはこれが初めてです。
男性の皆さま、あまりに見当違いな文章だったらごめんなさい。

もう1月も終わりですね。
大学に入って3回目の春休みです。
楽しまんとね。

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